侠客☆吉宗くん 第一話侠客誕生1

侠客、強きをくじき弱きを助ける義侠の人、
正義のためなら命を掛けても闘うその侠客の道へ、いま一人の若者が足を踏み入れようとしていた…。

第一章 侠客鬼瓦興業

第一話 侠客吉宗くん誕生

桜の花びらが舞踊る四月、大きなボストンバックをかついだ僕は、期待と不安を胸に、これから始まる新しい人生に向かって歩を進めていた。
僕がこれから暮らす多摩の地は、かつて武州と呼ばれ、古くは新撰組の近藤勇、土方歳三などの出身地ということで有名らしく、駅を降りてからの商店街には、いたるところに彼らの写真やポスターが張り巡らされていた。

僕は胸ポケットから一通の、いかついマークが刻印された封筒を取り出し、中の手紙に目を向けた…
《採用通知、一条吉宗殿、貴殿を我が社へ採用することに決まったので、ここにご報告申し上げる。入社日はおってさたする也、また地図はここだ、間違えぬよう注意、、、株式会社鬼瓦興業 代表鬼瓦辰三》

「なんとなく、変な採用通知なんだよなー、思い出すと面接の時も、奇妙だったし…」
僕はすこし曇った顔で、1ヶ月前に駅前の小さなビルで行われた面接を思い出した。

殺風景なビルの一室、僕は求人広告を片手に、面接会場と書かれた古びたドアをノックした。
コンコン
「あーい!どうぞー」
中から、どすのきいた声が返ってきた。
アルバイト経験はあっても正式な就職経験のない僕は一瞬たじろいだが勇気を振り絞ってドアを開け中に入っていった。

「あのー面接を受けに来たものですが…」
「よし!採用~!!」
ドアの向こうには、「おめでとう若人よ!」 そう走り書きされた風俗店の広告で使う、チャラチャラの飾り付けをしたプラカードをもった、それは恐ろしい顔のおじさんが笑顔で立っていたのだった…

「え?あの採用ってまだ何も…」
「採用だよ採用!おめでとう若人よ~!」
おじさんは、いやらしい笑顔で僕の手を握り、おもいっきり振り回すように握手をしてきた…。
そのスタイルは、見事に手入れされた角刈りに金縁の色つきめがね、右の眉には大きな傷あと、どう見ても一般の人とは思えないようすだった。
「いやー、おめでとう、おめでとう!」
大声でそう言いながら、こわもてのおじさんは、僕の手から履歴書をふんだくると、さっさと奥の部屋に向かって歩いて行こうとした、。
「あっ、あの、ちょっと、すいません…」
訳の分からない僕は、あわててそのおじさんを呼び止めた、するとおじさんは面倒くさそうに、こちらを振り返り
「おって沙汰する、若人よ…」
にんまり笑顔でそういい残し、とっとと奥の部屋へと消えていってしまったのだった…

「…なっ、なんだ、この会社は?…」
僕があぜんとして、たたずんでいると、今度は中から、めちゃめちゃ可愛い、長沢まさみ似の僕好みの女の子があらわれ、うれしそうな笑顔で僕に近寄って来た…
「おめでとうございますー、社長から伺いましたよー、これから一緒に仕事してくれるんですねー」
女性は澄み切った美しい瞳を向けながら、僕の手を両手でやさしく握り締めてきた。
「えっ?…あ……」
「えっ…て?、あの、一緒に仕事してくれるんですよね?…」
僕はその女性のあまりの可愛さに、顔を真っ赤に染めながら
「あっ!は、はい、そうです…」
「うれしい、頑張ってくださいね!」
「はっ、はい!…がんばります!がんばります!…」
何度もそういいながら、彼女の可愛い小さな手を握り締めていたのだった……

「可愛かったなー、あの子…」
僕はそうつぶやくと、目頭をだらしなーくたるませながら、
彼女と握手した右手を眺めていた…
「奇妙な面接だったけど、あんなに可愛くて、純粋そうな子が勤める会社なんだから…」
頬を赤く染めながら自分にそう言い聞かせると、地図に書かれた多摩川のほとりにある、これから僕の人生を掛ける会社に向かって歩き始めた…
その後、とてつもない恐ろしいことが、待ち構えているなんて、露とも知らずに……。